ネイチャーポジティブレジリエンス自然との共生自然信仰防災教育
【第95号 2026/6/10 発行】
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[1] はばたけ ルリセンチ No. 93
[2] 奈良町御師(おし)コラム
[3] お知らせ
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[1] はばたけルリセンチ No. 93

[2]奈良町御師(おし)コラム
おばあちゃん
……はあ。日本のあらぶる神様は、今でも怖いもんやねぇ。
ゆういち
どうしたの、おばあちゃん。ずいぶん深いため息やね。
おばあちゃん
京都の山で行方不明になっていた、アメリカの若い学生さんが、亡くなって見つかったいうニュースを読んでたんよ。まだ20歳やったそうや。
ゆういち
20歳か……。旅行で日本に来てた人なん?
おばあちゃん
そうなんよ。しかも、環境や持続可能な社会に関心を持って、そういう分野を学んでた学生さんやったいうんや。
AIの時代に、未来の社会をより良くしようとして学ぶ若者がな、せっかく日本を訪れてくれてたのに、この国の山で命を落とした。それが、なんとも痛ましくてなあ。
ゆういち
ほんまに残念やな。
おばあちゃん
まずは、静かに手を合わせたいね。せやけど同時に、この出来事を、ただの遭難事故ひとつとしてだけでは受け止められへんのよ。
ゆういち
というと?
おばあちゃん
日本の自然の厳しさを、あらためて思い知らされた気がするんや。
京都の山はな、数字で見たらそんなに高くないかもしれへん。でも、日本の山の怖さは、高さだけでは測られへんのよ。地形は複雑やし、雨が降ったら一気に様子が変わる。
ゆういち
今回は台風が来てたんやろ?
おばあちゃん
そうや。近畿にはかなり強い雨が降った。
いわゆる梅雨のしとしとした雨やのうてな、二月分に近い雨が、わずか一、二日に集中する。そういうことが、この国ではほんまに起こるんや。
山で道を失うて、身を守る場所もなかったら、若くて体力のある人でも命を落とすことがある。自然いうのは、そういうもんなんやと、改めて思うわ。
ゆういち
外国の人には、その感覚が分かりにくかったんかな。
おばあちゃん
そこはな、軽々しく言い切ったらあかんけどな、日本で暮らしてへん人には、台風とか梅雨前線いう言葉の切実さが、少し伝わりにくい面もあるかもしれへんね。
日本人はな、警報が出たら予定変えるし、川や海や山には近づかん。
そういう習慣が、長い暮らしの中で自然と身についてるんやろうね。
ゆういち
たしかに。“危ない日は行かない”って、言われんでも分かるところあるな。
おばあちゃん
それは知識いうよりな、この土地で積み重ねてきた感覚なんやと思うわ。
今回、大きな被害があまり広がらへんかったのも、そういう順応の積み重ねがあるからやろうね。
危ないと感じたら、先に身を引く。それは自然に勝ったんやなくて、自然に対して慎みを持ってきた結果なんやと思う。
ゆういち
捜索する人らも難しかったやろうな。
おばあちゃん
ほんまにそうや。
救助する側も自然の中に入るわけやから、二次被害も三次被害も防がなあかん。
台風の中で捜索を止める判断はな、冷たさやのうて責任やねん。
それに、若くてしっかりした学生さんやったら、どこかで危険を避けてるかもしれへん。そう考えるのも自然やろう。
でもな、自然は人の思うとおりには動いてくれへんのや。
ゆういち
きれいな景色の裏に、そういう怖さがあるんやな。
おばあちゃん
そうやね。
日本の自然はほんまに美しい。四季も細やかやし、山も深い、水も豊かや。
でもな、その美しさは、荒々しさといつも隣り合わせなんよ。
雨も風も恵みやけど、度を超えたら命を奪うこともある。
昔の人は、そのことをよう分かってたんやと思う。
ゆういち
だから神様って言うたんかな。
おばあちゃん
そうかもしれへんね。
風も雨も山も海も、ただの現象やなくて、畏れるべきものとして感じてたんやろう。
荒ぶる神を鎮めて、どうか静まってくださいって祈る。
それは迷信やのうて、この国の自然をよう知ってたからこそ生まれた感覚やったんかもしれへんなあ。
ゆういち
科学が進んでも、その気持ちはなくしたらあかんのやな。
おばあちゃん
なくしたらあかんのやろうね。
予報は正確になって、情報も早く届くようになった。
でも、それで自然がおとなしくなったわけやない。
むしろ分かれば分かるほど、人の力が届かへん大きさを感じることもある。
せやからこそ、備えて、学んで、そして畏れを忘れんことが大事なんやと思うわ。
ゆういち
その学生さんのことも、ちゃんと覚えておかなあかんな。
おばあちゃん
そうやね。
未来を考えてた若い命が、この国の山で失われた。
そのことを悼むことと、同時に、日本の自然の厳しさをもう一度自分たちの言葉で確かめ直すこと。
その両方が大事なんやろうね。
ゆういち
山って、近くにあるからこそ油断してしまうんかもしれへんな。
おばあちゃん
ほんまにそうやで。
遠い場所だけが危ないんやない。
町の近くの低い山でもな、雨の国やから、すぐに別の顔を見せる。
そのこと、忘れたらあかんね。
ゆういち
……おばあちゃんの言う“あらぶる神様”って、昔話やないんやな。
おばあちゃん
昔話やないよ。
呼び方が変わっても、私らが畏れなあかんものは、今もちゃんとそこにあるんや。
ゆういち
うん。なんか、今日のため息の意味が分かった気がする。
おばあちゃん
……はあ。日本のあらぶる神様は、今でも怖いもんやねぇ。
[3] お知らせ
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川井徳子
株式会社学びの旅 代表取締役。同社の前身である奈良新しい学び旅推進協議会の立ち上げに尽力し、2020年~2025年まで実行委員長を務める。奈良を舞台にした探究型学習プログラム「奈良SDGs学び旅」を企画・開発し、商品化。教育と地域をつなぐ新しい学びの仕組みを創出した。