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奈良SDGs大人の学び旅 鹿との奈良めぐり 鹿×春日大社 ツアーレポート

『鹿との奈良めぐり』自然と歴史の調和ツアー(モニターツアー)開催

観光庁補助事業の「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」における、英語圏の外国人を対象にしたモニターツアーが開催されました。留学生や奈良在住の外国人、奈良市内でゲストハウスや英会話教室を運営する方など普段から海外の方と接する機会の多い方々が参加しました。ツアーでは、参加者にレシーバーを配布し、同行する通訳がガイドの案内を英語で伝えました。参加特典の参加者名を漢字で書いたネームプレートは、大変好評でした。  

 

人と野生の鹿が市街地で共生するという、世界でも大変珍しい「奈良の鹿」。

そんな鹿との関わりから、奈良の歴史・信仰・自然を深く学べるツアーを企画しました。

英語圏の外国人が対象で、専門家が案内する3時間のツアー2コースです。

 

タイトル:『奈良で探る神々と仏の〝力関係〟の物語』

開催日時:2024120() 1245分~16

 

120()の開催当日は、朝から雨が降っており空模様が懸念された日でしたが、幸いにもツアー前に雨は上がり、ツアー中は傘をほぼ使うこともなく催行できました。

 

参加者22名は春日大社国宝殿前に集合、ファーストネームを墨で漢字表記された木製のネームプレート(参加証)を付け、暖かいカイロを手渡されて開始を待ちました。

 

 

全員揃ったところで、主催者、講師の渡邉伸一先生(奈良教育大教授)からの挨拶に続き、英語ガイドからツアーの予備知識として手作りの絵入り紙芝居を使ったレクチャーがありました。内容は、日本の宗教には神道と仏教があり、その起源や歴史、神と仏の関係性、藤原氏と春日大社や興福寺との関係について、イラストでユーモアも交えながらのものでした。

 

 

渡邉先生から「今日は、なぜ〝鹿が神様(神鹿)〟なの?ということを頭に置きながら歩いてください」という言葉を耳に出発です。まずは春日大社本殿へ。参道の二の鳥居左手前の「神鹿(しんろく)の像」前で、その鹿の背に乗っている榊(さかき/神が宿る神聖な木)と神鏡(しんきょう)を確認しました。そして春日大社は、常陸の国・鹿島(現茨城県)から鹿に乗ってこの地にやってきた武甕槌命(タケミカヅチノミコト)が主神であることを話し、「今日の主人公です。覚えておいて」と念を押されました。

 

 

鳥居をくぐり南門前へ。その手前で「左手に榎本神社があります。ちょっと頭の片隅に置いといてください」と促されました。皆さん「タケミカヅチ、エノモトジンジャ」とつぶやきながら、石段を登られました。

 

 

▪原春日信仰と現春日信仰

 

南門前では境内図を指し、御蓋山は春日大社の東にあり西向きだということ、春日大社の本殿は南向きだということを確認し、信仰に東西のラインと南北のラインがあることを知りました。それは、春日信仰の歴史なのですが、春日大社創建前の春日信仰と創建後の春日信仰に由来するということでした。

 

南門をくぐって本殿前で春日大社の4神を確認。主人公のタケミカヅチノミコトは御蓋山の一番近くの第1殿に、第2殿に経津主命(フツヌシノミコト)、第3殿に天児屋根命(アメノコヤネノミコト)、第4殿に比売神(ヒメガミ)が祀られていますが、アメノコヤネノミコトとヒメガミの間に生まれた若宮神は、後に若宮社へ遷るまでヒメガミと一緒に祀られていたそうです。

 

 

春日大社で大事にされているものに鹿のほかにフジ(藤)があり、本殿の山側の野生のフジの大木や砂ずりのフジ棚を示し、春日大社は藤原氏の氏神様であること、その家紋が下がり藤であることを話されました。

 

 

西回廊を抜けて内侍門下の阿部仲麻呂の歌碑の地点で、東を見るよう指示があり、「ここが御蓋山の頂を望める貴重な地点です」と。碑の歌「天の原 ふりさけみれば 春日なる 御蓋の山に 出でし月かも」は、遣唐留学生として唐に渡った(717年)まま帰国を果たせなかった仲麻呂の望郷の歌。

 

 

我々が今立っているこの場所で壮行神事が行われたことを話され、これが春日大社創建(768年)以前の原春日信仰であり、平城京から御蓋山を信仰の対象として仰ぎ見る、即ち先述の東西ラインを物語るものだと話され、参加者は深くうなずきながら御蓋山を見ていました。

 

 

▪春日大社の回廊隅に祀られている榎本神社

内侍門下から回廊に戻り、猿田彦命(サルタヒコノミコト)を祀る榎本神社前へ。この榎本神社こそが原春日信仰の神(地主神)なのだと説明され、なぜ隅っこに祀られているのか、その由来を話されました。続いて御間道(おあいみち)を抜けて春日若宮社へ。

 

 

▪春日若宮

若宮社の創建は1135年(平安末期)。なぜ創建後400年もたってから若宮社が建てられ、若宮様が遷されたのか、そしてその翌年に始められた若宮様のお祭り「おん祭り」は、春日大社の春日祭よりも盛大で大和一国をあげての祭りなのか。そこには興福寺の権力誇示の意図があったのではと話されました。

そして常陸の国から白い鹿に乗ったタケミカヅチノミコトが奈良にやってきたという「騎鹿遷幸神話(きろくせんこうしんわ)」のこと、興福寺南円堂の不空羂索観音(藤原北家の守り本尊)や「本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)」、この神域に居るから「聖獣」だった鹿が「神鹿」とされたのも興福寺のイニシアティブ?と話され、参加者は興深い様子で聞き入っていました。

 

 

春日大社は南向きなのに若宮社は西向き、これはなぜ? と先生の問いかけは尽きません。

2022年に式年造替を終えた若宮社の本殿と回りの瑞垣(みずがき)の朱の色の違いも指摘、本殿は「丹」が塗られているからだと話し、「丹」の功罪にも触れました。

 

また、若宮社の神楽殿の注連縄(しめなわ)は蛇との説もあると話し、日本の神は元々蛇だったとも。またWHO(世界保健機構)のロゴにも蛇が使われていることにも触れました。若宮社の隣にあり、若宮の食事作りを担当した夫婦大國社(めおとだいこくしゃ)拝殿に掲げられた額の蛇も見学しました。ちなみに若宮社に向かって左にある小さな祠(ほこら)は、おん祭りを始めた人が祀られているのだとか。

 

 

オーストラリア出身の参加者が「ギリシャ神話にも蛇の神がいるし、オーストラリアの先住民もそうだ」と話すと、「蛇は脱皮するし、鹿の角は毎年生え変わる。そして蛇皮も鹿角も薬となることから、生命力を感じたのでは。アニミズム(万物に霊が宿るという思想)に根ざしたものでしょうね」と話されました。

 

▪春日大社ゆかりのお菓子と熱いお茶で一服

冬の厳寒期ということもあり、コース途中で国宝館前へ立ち寄り、熱いお茶とお菓子が振る舞われました。お菓子は奈良の老舗菓子店・萬々堂通則の「ぶと饅頭」。これは春日大社の御神撰の唐菓子を模したもので、米粉を練って象(かたど)り油で揚げたものです。御神撰は餡が入らないのですが、萬々堂さんでは現代人受けするよう工夫されており、包装紙には件の下がり藤が印刷されています。甘いお菓子と熱いお茶で暖を取り、コースに戻りました。

 

 

▪飛火野のポコポコの盛り上がりは何?

奈良公園の芝刈りは誰がしているの?

若宮社から参道を下り飛火野へ。途中、春日荷茶屋(にないぢゃや)の看板に鹿せんべいを与えている江戸時代の風景画があり、「あのようなやり方で鹿せんべいを与えて」と。鹿苑あたりから飛火野へ入るとすぐに丸く盛り上がった小山があちこちに見られ、「なんだと思いますか」と先生。「実は原春日信仰の頃のお墓です」と話され、皆驚きました。

 

 

広い草原を車道近くまで歩き、御蓋山展望の地まで行きました。神奈備(かむなび)型の御蓋山が美しく見えることを実感して記念撮影。また、このきれいに刈り込まれたような芝が広がるビューティフルな景観は、鹿が草を食(は)むから、糞も少ないのはそれを食べる糞虫がいるからとの解説に、「お~、まさにSDGs!」との声が上がりました。

 

寄ってきた鹿に鹿せんべいを与える体験もしました。「お~、ベイビー」「こんにちは~」と鹿の首振りに合わせて鹿に挨拶したり、「もうないよ~」のジェスチャーをしたりと、しばし鹿たちとの触れ合いを楽しみました。

 

 

▪若宮様のおん祭り御旅所

参道に戻って若宮様の御旅所に向かいました。ここは若宮様が年に一度1217日の午前零時に若宮社を出て、その日の24時までに戻られる折の仮の社。ここで若宮様は丸々一日、数々の珍味供物とともに目の前で繰り広げられる神事芸能に興じられるのです。その一環の行事が「おん祭り」です。飢饉や災害、疫病から万民を守るために藤原氏が始めたと現地の説明板にあり、若宮造営の翌年から始まり900年近く途切れることなく続いています。

 

「歴史は支配者が変わるたびに情報や事実までも変わります。奈良の鹿は権力を示すために利用されてきた面もあります。信長、秀吉、家康も鹿の扱いに悩みました。奈良の歴史は長く、実は~ということも多々あるのです」と締めくくられ、解散となりました。

 

参加者は、QRコードで本ツアーのアンケートに答え、参加賞の折り紙の鹿がプレゼントされました。インドネシアの男性は「今まで何度か(春日大社に)来たが、初めて知る内容ばかりだった」、同じくインドネシアからの女子留学生は「神道と仏教の関係性が興味深い。学びが多かった」と話しました。ほかにも「ホームページで知り得る内容と違い、とても興味深い話でした」とか、「南北ライン、東西ラインの話は目からうろこが落ちる思いでした」という感想が聞かれ、それぞれに奈良をより深掘りできたという満足感を抱いて帰途に就かれたようです。