SDGs多文化共生奈良奈良少年刑務所少年司法治安
【第83号 2025/12/23 発行】
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[1] 奈良SDGs学び旅 問合せ報告/実施報告
[2] はばたけ ルリセンチ No. 82
[3] 当社代表取締役によるコラム
[4] お知らせ
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[1]奈良SDGs学び旅 問合せ報告/実施報告
●問合せ報告
実施日2027/9月 富山県 中学校 50人
●実施報告
[2] はばたけルリセンチ No. 82

[3]当社代表取締役によるコラム
多文化共生と日本の少年司法
― 多文化的視点と少年法研究、奈良少年刑務所の記憶 ―
日本の「治安の良さ」は、しばしば海外から羨望をもって語られる。
その評価を、私たちはどこまで自覚的に受け止めているだろうか。
現在当グループのホテルで働くエジプト出身のMさんは、母国で日本人観光客向けに歴史や文化を伝えるガイドとして活躍してきた人物だ。流暢な日本語、高い教養、そして穏やかな佇まいを備えた彼が日本を選んだ理由は、きわめて明確だった。「この国の治安の良さに惹かれた」のだという。
Mさんは現在、日本に家族を呼び寄せることを目標にしながら、奈良教育大学と公益社団法人ソーシャル・サイエンス・ラボが連携する、平和に関する研究にも取り組んでいる。異なる文化圏から来た一人の観光業で働くスタッフが、日本社会の安全と包摂性に希望を見出しているという事実は、私たち自身が日本の社会制度を見つめ直すための、静かな問いかけでもある。
日本がいまの治安水準に至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。戦後直後、強盗や殺人などの凶悪犯罪が多発し、社会不安は深刻だった。その中で、犯罪を「取り締まる」だけでなく、「立ち直らせる」ことに真正面から向き合ってきたのが、日本の少年司法である。
なかでも奈良少年刑務所は、少年の更生を社会全体で支える象徴的な存在だった。刑務所の職員だけでなく東大寺や地域住民が一体となり、若者を排除するのではなく包み込む。その積み重ねが、日本の治安改善を下支えしてきた。
しかし、この奈良少年刑務所はすでに役割を終え、現在はホテルとして新たな命を与えられている。廃止にあたって刊行された『美しい刑務所―明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所』(上條道夫[写真]・寮美千子[文]、西日本出版社、2016年)は、その歴史と意義を多角的に伝える一冊だ。刑務所が単なる「閉じられた施設」ではなく、社会の病を癒そうとした場所だったことを、静かに語っている。
少年司法をめぐる議論が感情論に傾きがちな現代において、河合幹雄氏の研究は重要な視座を提供している。河合氏は、少年非行を法律問題としてのみ扱うのではなく、社会構造、教育環境、統計データを踏まえて総合的に分析してきた。
彼が一貫して強調するのは、少年の「更生力」だ。多くの少年事件は、環境が変われば再び社会に適応できる可能性を持っている。だからこそ、彼は、厳罰化を拙速に進めるのではなく、教育的処遇を優先すべきだという少年法の理念を支持している。
また、世論に押される形で進む少年法改正や、年齢引き下げの議論についても、河合氏は慎重だ。「治安悪化」というイメージが必ずしも実態を反映していないことを、犯罪統計から明らかにし、社会不安と現実との乖離を指摘している。
『美しい刑務所』が編纂されたとき、奈良地方裁判所で委員を務めていた私は、一つのオマージュを寄稿した。
私には、奈良少年刑務所の跡地に、ひとつのビジョンが見える。
それは「魔法学校」としての刑務所だ。
かつて「ベルベットの手袋に包まれた鉄の拳」と表現された少年司法の営みは、若者を力でねじ伏せるのではなく、やさしく包み込み、背中に翼を与えてきた。刑務所の職員という縦糸と、地域の人々という横糸が織りなすその手袋は、長い時間をかけてしか作れない。
世界のどこかで、テロや高い犯罪率に苦しむ国々の人々が、この地に学びに来るかもしれない。ヒロシマを訪れる人々が平和を希求するように、社会の病を癒したいと願う人々が、ここに答えを探しに来るだろう。
同時に、日本やアジアの若者たちが、ここから世界へ羽ばたこうと集ってくる姿も見える。音楽、工芸、現代芸術、映画、写真、AR、ロボット——多様な表現が生まれ、若者たちが交わる場。
奈良は、不思議な場所だ。
野生動物が人と共に生き、神と仏の祈りが共存し、千三百年前の時間が今も息づいている。
新たに生まれ変わる施設が、百年にわたる刑務所の歴史を受け継ぎ、争いではなく慈愛と寛容によって未来をつくる象徴となることを、心から願っている。
多文化的な背景を持つMさんの存在、少年法研究が示す知見、そして奈良少年刑務所の記憶。それらはすべて、「社会は若者にどう向き合うのか」という、ひとつの問いに収斂していく。
日本が世界に誇るべきものは、治安の良さそのものではない。
人を信じ、育て直すことを、社会全体で引き受けてきた、その姿勢なのだ。
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代表取締役 川井徳子
株式会社学びの旅 代表取締役。同社の前身である奈良新しい学び旅推進協議会の立ち上げに尽力し、2020年~2025年まで実行委員長を務める。奈良を舞台にした探究型学習プログラム「奈良SDGs学び旅」を企画・開発し、商品化。教育と地域をつなぐ新しい学びの仕組みを創出した。