【第44号 2024/6/4 発行】
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[1] 奈良SDGs学び旅 問合せ報告/実施報告
[2] はばたけ ルリセンチ No.43
[3] 実行委員長コラム
[4]お知らせ
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[1]奈良SDGs学び旅 問合せ報告/実施報告
●問合せ報告
・2024/12/5 福岡県 中学校 80人
・2025/9/4 福岡県 中学校 75人
・2025/9/9 福岡県 中学校 72人
・2026/10/14 茨城県 中学校 147人
●実施報告
・2024/5/31 大阪府 中学校 オンラインSDGs講義 238人
[2] はばたけ ルリセンチ No.43
[3]実行委員長コラム
5月16日の関西・歴史文化首都フォーラム in NARAに関連した内容として、「ユネスコ無形文化遺産に登録された能楽、その発祥は奈良」を前回にお伝えしました。
今回も、奈良という場所がユネスコ無形文化遺産の「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」にとってどれほど重要な地域かということをお話したいと思います。
伝統建築について深く知るには、宮大工・西岡常一棟梁の生き様を描いたドキュメンタリー映画『鬼に訊け』は素晴らしい作品です。今も、アマゾンプライムで観ることができます。西岡棟梁は、世界最古の木造建造物「法隆寺」を千四百年以上守り続けてきた宮大工の家柄に生まれました。この映画では、口伝や書物を通じて日本の建造物の建て方と維持の伝統を継承してきた西岡氏の生き様を描いています。
西岡棟梁が関わった一大事業に、薬師寺の伽藍の復興があります。その中でも、最も重要なのは金堂の再建でした。
「鉄は持って数百年程度、木材(ヒノキ)は千年持つ。鉄を使うとその部分から腐食する。」と主張する宮大工の西岡棟梁と、「台風や地震、火災からの文化財保護の観点からも鉄筋コンクリート補強が望ましい」と主張する竹島卓一教授(元名古屋工業大学)との間で論争が起きました。
結局、西岡棟梁の「木造で建設するべきである」という考え方(千年の口伝)は1970年代に研究者に押し切られ、薬師寺金堂は「構造は、鉄筋コンクリート造り・木造仕上げ」という現代建築として再建されました。というのも、再建委員会には現場のトップである西岡棟梁は加えられていなかったためです。
建築学会の大御所である内田祥哉先生(東京大学名誉教・建築家)の著作『日本の伝統建築の構法』によると、委員会のメンバーの太田博太郎先生(東京大学名誉教・建築史家)は、次のように述べていたそうです。
「あんな鉄筋コンクリートに木造を結わえつけたら、鉄筋コンクリートは収縮しないけれど、木造のほうは重みで収縮して、すき間だらけになって、みっともない格好になるに決まってるじゃないか。」
今、同じことに直面しているのが、平城宮跡の第一次大極殿院東楼復原整備工事です。ここでも、鉄骨とコンクリートが一部に使用されています。
鉄筋コンクリート造構法は、現代社会において欠くことのできない建築の技術です。
しかし、この構法はたかだか100年くらい前から盛んに取り入れられるようになった、新しい技術なのです。
日本はもちろんのこと、エンパイアステートビルで有名な米国のNYでも、鉄骨鉄筋コンクリート造で高層ビルが建てられ始めたのは20世紀の初頭です。
日本で活躍する棟梁や先見のある研究者は、「たとえどんなに頑強であっても、100年の歴史しかない技術を1000年を超えて使い続けることを構想する建造物とミックスするのは、数百年後には大きな課題を抱えることとなる」と、気づいていたのです。
確かに、世界には古代ローマ時代に石とコンクリート建設された、2000年の歴史を持つ世界文化遺産のコロッセオや水道橋などがあります。
しかし、それはローマンコンクリートと言われ、現代のコンクリートとは異なる、自己修復機能を持つ古代コンクリートで作られています。これらの世界文化遺産は、現代とは異なる古代の知恵が活かされた特殊な建造物として今も威容を保ち続けています。
ところで、薬師寺の復元工事にあたって、なぜこのような中途半端なことが行われたのでしょうか。
その原因を論争後に深く考察されたのが、建築構法の第一人者・内田祥哉先生でした。内田先生は、戦後の1950年に「建築基準法と同年に成立した文化財保護法で、伝統建造物の棲み分けがなされたが、その際に新築に関する法律については整備が抜け落ちた。」ことを理由として掲げておられます。
戦前の市街地建築物法第13条には、「本令中、高二関スル規定ハ、社寺建築二シテ行政官庁ノ許可ヲ受タルモノニツキ、コレヲ適用セズ」、という条文がありました。1950年より以前は、それなりの棟梁がきちんとした考えと経験で、「これなら大丈夫」と自信をもって造る社寺建築であれば、大規模なものでも「コレヲ適用セズ」だったのです。
ところが、戦後直後の新しい建築基準法の制定時には、この部分がすっぽりと抜け落ち、すべての新築が建築基準法に適応すべきとなったのです。ですから、現在の伝統建築は新築において、現代建築と同じ手続きが求められます。
それは、自然を相手にして長年の経験や口伝によって支えられた千数百年の伝統技術を、無視していく方向に向かっていることと同義です。
映画『鬼に訊け』には、西岡棟梁が弟子に指導している様子がいきいきと描かれています。その弟子達がわずかながら残っています。
しかし、その人々が消えた時、日本の伝統建築で培った千五百年の知恵を、誰も承継できないかもしれないのです。いま、そういう危機に私たちは直面しています。
薬師寺では、金堂再建に続いた東塔の解体修理においても、大工ではなく研究者の意見が押し切られることとなりました。
言語が消える時、その民族の文化全体が消えるといわれています。
同様に、伝統建築の技術が消えることは、日本の建築文化の歴史全体を失うことにつながるのではないでしょうか。
さらに問題なのは、太田先生や内田先生が提起された問題の結果は、今から100年後の私たちがいなくなってからしか出ないということです。これはとても大きな課題です。
文化の多様性は、生物の多様性と同じくらいに重要です。様々な地域と文化は密接に結びついて、持続維持可能な社会を形造ってきたからです。
奈良が直面している「日本の伝統建築文化の危機」は、世界の中でも重要な課題であると思われます。西洋の技術とは異なる文化と、それがもたらす千年の知恵が失われようとしているからです。
有形文化財の保護の意義は、姿が見えるため人々が認識しやすく、とても大切に受け止められます。
一方で、酒造りや建築の技術などは形がないため、保護の意義をなかなか理解してもらえません。
しかし、生物の多様性と同じくらいに大切なテーマなのです。この課題は意識の高い研究者と共有し、奈良に住む人々と共に課題の検証に取り組んでいくしかありません。
それを世界に伝えていくことが、SDGsの達成に繋がっていくと思います。
[4]お知らせ
●学び旅学級新聞の感想を募集しています!
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